ほんのりと怖い話 『おばけなんてないさ』2/2 - 洒落怖本舗

ほんのりと怖い話 『おばけなんてないさ』2/2

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『おばけなんてないさ』1/2を読む

107 :本当にあった怖い名無し:2013/01/08(火) 22:35:13.63 ID:RkLWWCD/0
上京の時のようには大学生活は上手くいかなかった。
まず、一番問題になったのが、実家の熟練中居の息子さんと同期入学だったこと。
自分もうちで働くつもりでいたらしくてさ。本人、悪気はないんだろけど、学内で坊ちゃんなんていうもんだから、ばればれ。
噂が広まってくと、そこから色々崩れてった。一番空気悪くなったのが部内。
燃え尽きてないままに里帰りしたから、当然部活は軽音楽部に入ってた。
ロックが音楽の中で最高峰。生き様もロックが最高っていう割に、かっるーいビジュアル系な三年四年のバンドがいたんだ。
これに目をつけられちゃってね。
何かというと、苦労も知らずに音楽やってるやつはカスだ、みたいな扱い。貧しさから音楽性は育つとかいうんだ。
いっちょまえに苦労はしてきたよ、と言えたら苦労しないんだな。
で、部内にただよいはじめたイジメの空気。君子危うきになんとやら。
最初はお決まりのパシリから、苦労を知れって感じでね。
それから、ちょくちょく、数の暴力で金は巻き上げられる。
その金バイトして貯めたお金なんだけどっていっても嘘つくなだってさ。
中学のころのアダ名がブヨンドバッグだった位イジメには弱いタイプだったんで、散々なめにあったよ。

ま、やられっぱなしも癪だから、
学祭の時に、その先輩方がへったくそなB’zのコピーやったので、
曲目を突然変更して、女の子にもてたいだけの勘違い音楽と、プロ目指してた人間とのレベルの違いってのを、
一生懸命な拍手と歌い終わったあともらえる熱唱で見せつけた…んだけど、短慮だったかも。
なにせ、後夜祭のあと半ば拉致られて、
お腹には紫色の痣が残るわ、目の周りは腫れあがるわって感じでぼっこぼこにされたからね。
後片付けの日は家でうんうん唸ってた。いたかったなあ、あれ。
でもまあ、苦労せずにとか、絶対言われたくない言葉だったから、後悔はしてない。
真面目に部活するより、取り巻きの女の子相手にしてるほうが長い人にだけはいわれたくない言葉だからね。
…これもいえたらよかったなあ。
実際には、口止めされたがままに、怪我の理由を聴き取りにきた人に転んだというようなヘタレぶりだった。

108 :本当にあった怖い名無し:2013/01/08(火) 22:36:47.87 ID:RkLWWCD/0
二年になって大分状況は改善した。
新三年で部長になったのが、僕とコンビを組んでたタカオって、TMNの影響受けたDTMマニアなんだけど、
これが就任直後、部内の乱れた風紀を正すといってくれた。
名指しはせずに、暴力沙汰が横行していたら、いつ部活が永久活動停止になってもおかしくないって問題提起。
これがあると相手動きづらくなるのよね。ほんと助けられた。
釘指すように、部内でいかがわしい異性交友の噂もあるからこういうのも気をつけてほしいと。
それでもかげで、ぶんなぐられたりってのはあったけどね。
一番マシだったボーカルが抜けて、音痴のボーカルしか手元に残ってなかったから、
ますますレベルの違いが浮き彫りになって、相当苛立ってたみたいだし。
とはいえ、金巻き上げられるのはぴたりととまったから、それが有難かった。
ま、因果応報っていうのかな。
ドラムのセンパイは、バイクの事故で利き手の指を粉砕して、一時バチ握れなくなった。
リハビリ後も前よりよくハズす腕前にグレードダウンしてたけど。ノリすらなし。
それで本格的にバンド活動休止になって、たまにしか姿みせないようになったっけ。

三年になったら、ほんと別世界。もう、センパイ方はいない。
ま、見て見ぬふり決め込んでたのと交流がうまくいくかっていったら、そうじゃないけどさ。
二年間障らぬなんちゃらにたたり無しーでやってこられて、今更声かけて来られても困るしね。
でも、新入生相手には面倒見よくしていたら、そっちで部内で良い具合に交流がつくれていった。
なんでそんなに上手なんですかって言われることも多かったので、上京して挑戦してた頃のこといったら、
プロのトレーナーについてたのが相当凄いと思われたらしく、ほんとあれこれと相談受けるようにもなった。
ようやく僕の大学生活ははじまったなあ、という感じになった。
代わりに、タカオとの別れを経験したけどね。
学業も忙しくなって、部長業務あるから、DTMのための時間とれなくなったとコンビ解消。
ま、アカペラでFly me to the moonとか、愛の讃歌歌ってられるだけで幸せだったし。
幸い、自分のバンドの分以外に、僕と即席で組んでくれる相手にも新入生限定でならことかかなかったから、
他大学を招いてのセッションとかもどうにかこなせてたっけね。

109 :本当にあった怖い名無し:2013/01/08(火) 22:37:43.31 ID:RkLWWCD/0
この頃の僕の日課というと、ゴミ焼却炉のあるあたりで、人知れずおばけなんてないさを歌うこと。
なんか、振り返るとあのアパートでの日々のほうが、一年二年と過ごした学生生活よりもよくってね。
サンドバッグだった頃は、あえて思い出さないようにしてたけど、事態が解決して気が緩むとほんと懐かしくて。
すっごく懐かしくて、福の神様に届けといわんばかりに歌ってた。

ある日、気がつくと三階の窓から誰か見てるのがみえた。顔をあげる頃にはいなくなった。
それから時折、視線を感じるようになった。
なんだかなあと思いつつ、でもほかにこういう歌を歌える場所もなかったので諦めてた。

しばらくして、視聴覚室での練習日に、見覚えのあるようなないようなって感じの部外の女子がきた。
この時の僕は、招待されたJazzセッションのために、Autumn Leavesの練習してたはず。
これ、Jazz男性ボーカル曲の定番のなかでは、とびきりボーカルの難易度高い。
歌いながら、あ、なんかきたなと思ってチラ見してたら、行儀よく腰掛けた後でうっとりしていくのが見えた。
歌い手と聴き手の関係って、ただの送受で終わらないことあるんだな。それが好きなの。
一曲終わるまでのすごい短期の恋愛みたいになることがあって、それがその時に起こってた。
陶酔してくれるような聴き手がいると、歌い手も実力以上に歌えたりするんだ。
僕はどっちかっていうと、ちやほやされるところが原点だから、歌い手としては致命的なほどメンタルが弱くってさ。
それが、デビュー出来ずに終わった原因なんだけど。
具体的なオーディションとかでは、面接官って仏頂面なことが多いからね。
勝手に調子崩して沈むって失敗繰り返してたのさ。
ましてや練習なんていうと、粗が出て当たり前なのに、すごく気持ちよく歌えたんだ。
「今日はいつものおばけの歌は歌わないんですか」
「え?」
「おばけってなんすか先輩」
「おばけなんてないさ、おばけなんてうそさって」
「エー!?先輩ああいうのも歌うんすか」
怖がりだったんすかーとか、からかわれまくったなあ。

110 :本当にあった怖い名無し:2013/01/08(火) 22:39:38.42 ID:RkLWWCD/0
「…んー、まあ思い出の曲でね」
「あ、すみません。内緒?」
「…いいけどね。秘密の練習場所によく来てたのって君?」
「はい。ここ数日見かけなかったので」
「本番近いから調整でね。いや、でも嬉しいな。わざわざ来てくれるなんて」
「あ、私法学部二年の潮田です」
「法学部?頭いいんだ。僕は文学部の三年の三木。
僕の偏差値で入れそうなのが、史学科だけだったってかんじ」
「さっきの歌、良かったです」
「見てて分かったよ。ありがとう。あんまり居心地良さそうだから調子出たよ。
部内だとJazzとか興味あるの少なめで、Rockとか中心だからさ」
「専門は、童謡とかわらべ唄ではないんですね」
「ジャンルはごった煮。サブちゃん歌ってさぶーとか言われるし。そこらの後輩に」
「いや、そんな絶対零度なギャグ言いませんて。そういや、先輩、ほんっと色々っすよね。歌い分けばっちりだし」
「演歌好きのおじさんとか、ポップ好きのおねえさんとかに囲まれて育ったからね。
最初っから特定ジャンルに傾倒せずに、色々齧ったおかげかな」
「おもしろいご家庭なんですね」
「ああ、いや。家庭っていうか、家が旅館でね。ファミコン代わりに、カセットテープ時代のカラオケの機械で遊んでたから」
「あ、おぼえあります。ゲームボーイ欲しかったんですよ、結局買ってもらえなかったな。…また、来てもいいですか?」
「もちろん。興味あるなら、入部する?」
「カラオケ上達なんて気分で入ってもいいんですか?」
「どうぞ。目標なんて、個々でそれぞれだし。僕もマイペースに上手になりたいってだけ」
「凄く楽しそうだから。入部、します。かけもちなんですけど」
「他になにかやってるの?」
「創作ダンスをちょっと」
「大人しそうに見えるのに、案外運動好きなんだ」
「いえ。断りきれなくって」
「ああ、その気持は、とってもよくわかる」

111 :本当にあった怖い名無し:2013/01/08(火) 22:42:14.35 ID:RkLWWCD/0
「そうだ。あの方も部員さんなんですか?」
「あの方?」
「えっと、セーラー服の」
「…え?」
「はじめて、歌声に気づいた時にみかけて。なんだか楽しそうで。
それで、ふと足を止めたら、先輩の歌が聞こえたんですよ」
「セーラー服…」
「はい。大学構内だから目立ちますよね。あ、漫画研究会とかでしょうか」
「…いや、多分違うと思う」
も し や。ええいままよと歌い出す。おばけなんてないさ。
だけどちょっとだけどちょっとと歌っている最中に、窓ガラスにだけ映る不気味な影がみえたー。
なんでいるの。連れきちゃってるよ。福の神さま。
「まじうけるー!軽音でそういうのなしでしょ」
げっらげら笑い出す周囲。どうもあの福の神様の周りには笑いが巻き起こるみたい。

で、まあ胸のあったかーい話なんだけどもだね。まーそれだけともいかないんだよ。
例えば僕が男子トイレに入ってた時に、うひゃあなんて大学生にもなった男の悲鳴が聞こえる。
も し や、と思うと、今なんか清掃具入れに入ってく女みたとか震えてる。
開けてみてももちろんいない。

研究棟の屋上で、誰もいないからと気分よく歌ってたら、下のほうであがる悲鳴。
も し や と思って降りてみたら、女の子が上から落ちてくる女性を見たとか半狂乱。
これってもしかしてお祀りねだられてるのかと、理解。
とりあえず悪戯っこに戻った罰として、折り紙でつくった箱に油性マジックで神棚って書いたら、霊障収まった。

結局、大学卒業まで女将候補は現れず。ま、馬鹿なのに卒業できたという幸運には恵まれたかな。
実家に戻ってからは、時折セーラー服の女性が、従業員の入浴時間の外れに露天風呂で目撃されたりして、
なんだかもう、押しかけ女房されちゃってる気がしないでもない。
それならそれで、裸位見せろーと自室で言ってたら、運悪く母が扉を開けてえらい恥かいたりもしてる。
一緒に風呂位はいってもらえないものかねえ。
水の中が黒っぽく見えたと思ったら、土左衛門みたいに女が浮かんできたーとかでも、この際裸ならいいやとすら思う。

113 :本当にあった怖い名無し:2013/01/08(火) 22:47:53.36 ID:RkLWWCD/0
以上僕から見たお話はおっしまい。

今では潮田さんとか事情知ってて、それによるとさ、
実はね、アパート暮らしの時にお供えしてたものさ。
貧乏暮らしだったから、なんかもったいなくって、お供えしては飲み食いってやってたのよ。
供えるために買ってきた日本酒に手をつけたのも一度や二度じゃなくってね。
どうもそれがとってもまずいんじゃないかって話。
みんな気をつけてね。お供えものには手をつけちゃダメダメ。

さーって、風呂はいってくるー。
おばけだって愛さーっとな。

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