132 :4/5:2007/12/28(金) 03:25:08 ID:/DfzRugU0
それが分かっているのは、恐らく俺だけだったと思う。
後の三人に、この現象を怪しんでいる様子は微塵も感じられなかったのだ。
「なんか怖いね」という言葉を俺は発しなかった。
これを言うと、いよいよ俺までおかしくなるんじゃないかと思ったからだ。
(幼いのによくそんなこと考えたなと思う)
三人がまだ先に進もうとする。
「そろそろ戻ろう」
俺はそう提案したが、
「何も見つけてないのに、探検から帰れる訳ないだろ」
と、三人のうちの一人が言うと、他の二人も同じ様なことを言った。
俺は渋々三人についていった。
やはりそうだ。倉庫はさっきのものと同じだ。耕運機も。
三人はそのことに気付いていない。
「おかしくない?迷ってるよね」
俺がそういうと、
「道が一本なのにどうして迷うのさ」
こっちがおかしくなりそうだった。
そんな状況でも、何故か好奇心が恐怖に勝っていた。
怖いもの見たさという感情が、幼い頃から備わっていたのかもしれない。
まただ。麦藁帽子。
もう耐えられなかった。
「ちょっときて!」
従兄の袖を引っ張り俺は走っていた。
走っている最中に、いきなり走り出した理由を尋ねられたが、答えている余裕は俺の心になかった。
しばらく必死に走って、気付いたらロープの前にいた。
スピードは緩めずにロープを飛び越えた。
そのまま親のいるところまで駆け抜けた。
もしかしたら泣いていたかもしれないが、そこは良く覚えていない。
133 :5/5:2007/12/28(金) 03:26:32 ID:/DfzRugU0
落ち着いた後、怪訝そうな顔をしている俺以外の全員に、先ほど起こったことをありのまま話した。
それはもうポルナレフの如く。(冗談抜きでポルナレフのように)
話し終わると、叔父を除く全員が笑っていた。
そんなことあるわけないと言った様子で。
叔父は俺に近づいて、
「立ち入り禁止のところに入ったのか。じゃあ、狐か何かにだまされたんだろうな」
そう囁いた。
詳しく聞くと、どうやら立ち入り禁止の林道には結構危険な動物(熊か何かだった気がする)が出るらしく、
許可を取っている猟師や林業関係の人のみが、本当に稀に利用する程度だという。
綺麗になっていたのは、少し前に木材調達に来た業者が、ついでに荒れた道を整備していったのが理由らしい。
「狐かなんかが化けたんじゃないかってのは、
この辺りにそういった話があるから、きっとお前たちも化かされたんだろうなと思ってね。
でも、どっちかというと警告だったんじゃないかな。これ以上進むなっていう」
じゃあ何で俺しか気付かなかったんだという疑問が即座に沸いたが、それを聞く気にはなれなかった。
というよりも、わかってしまったのだ。
多分狐(或いはそれ以外のバケモノ)は、俺たちをずっと迷わせるつもりだったのだ。
警告なら、そのまま帰れといえばすむことだ。それをしないということは、そういうことである。
俺は誰にも話さないでおくことに決めた。
未だにこのことは、誰にも話していない。
聞きたいといわれれば話すけど、聞かれもしないのにこんな話をして恐怖心を煽るのは気が引けるのだ。
(当事者たちには特に)
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