百物語 『暗闇』 - 洒落怖本舗

百物語 『暗闇』

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54 :へたれ語り部 ◆hdUppeK1Rw :2005/08/03(水) 00:38:44 ID:dVykYBVc0
こんな話を知ってるか?

俺は大学の時、登山サークルに入っていてな。
今思うと色々無茶したもんだけど、それでも楽しかった。
ただな、今でも不気味に思うのは、山小屋とか、テントの中だ。
明かりがさ、少ないってのは、影が多く感じるんだよ。
真ん中に置いた蝋燭一本とか、そういうのは逆に怖いんだ。
お前ら、コンビニの天井見てみろ、蛍光灯何本もつかってるだろ。
あんだけ明るいと、暗闇なんてどっか行っちまうからな。
追い出された暗闇ってのが、古い山小屋には残ってるんだよ。

55 :へたれ語り部 ◆hdUppeK1Rw :2005/08/03(水) 00:42:41 ID:dVykYBVc0
俺が二年になったばかりのとき、○○岳ってとこで下山予定より遅くなって、山小屋に泊まる破目になってな。
ただ、暗い中を歩くのも危ないっていうことで、そこで寝ることにした。
明かりに懐中電灯を使おうとしたんだが、電池がもったいないと言って、山小屋にあった蝋燭とランタン使ってね。
真ん中に立てて、みんなで見てるんだよ、火を。
まだ寒いって時期じゃなかったし、家族とか彼女とかの話で盛り上がったね。

56 :へたれ語り部 ◆hdUppeK1Rw :2005/08/03(水) 00:45:36 ID:dVykYBVc0
ふっとさ、目の前の相手の後ろに、大きい影ができててね。
全部で四人しかいなかったから、ちょうど全部の壁に一人ずつ
大きい影ができてるんだ。
ただ、蝋燭だからな。影というより、暗闇に光が差してるって感じだ。

ぼーっとしてたらみんな眠くなったらしくて、毛布に包まって横になったんだが、目線に蝋燭があると眩しくてな。
「消すか」なんて話をしているときだった。

57 :へたれ語り部 ◆hdUppeK1Rw :2005/08/03(水) 00:48:44 ID:dVykYBVc0
俺の前のやつが、俺の後ろを見つめてるんだよ。じっとな。
俺も後ろを振り返って、そいつの視線を追うんだけど、なんにもない。
蝋燭消そうか消さないか、というときだったから、みんな不思議がってな。
その見つめている奴に色々聞くんだが、黙ったままでね。
見かねた一人が、「じゃ、○○も眠そうだから消すぞ」っていった瞬間、
その俺の前のやつが「消すな!絶対に消すな」って豪い剣幕で叫ぶんだ。
そのとき、俺はなんとなく『こいつ、なんか見ちまったな』って思ったんだよ。

58 :へたれ語り部 ◆hdUppeK1Rw :2005/08/03(水) 00:51:44 ID:dVykYBVc0
結局、そいつは蝋燭を消そうとすると怒るから、
みんな思い思いの方向向いて寝て、そいつだけずっと蝋燭を眺めてた。

朝が来て、窓から日の光が差したとき、ようやくそいつが口を開いてね。
そいつが言うには
「何かはわからない。でも、絶対に見ちゃいけないものを見てしまった」って、青い顔して呟くんだ。
普段マジメなやつなだけに怖くてね。
壁のシミだ、錯覚だ、疲れてたんだ、と色々言うんだけど、そいつは譲らないんだよ。
「見ちゃいけないものを見たんだ」とね。

59 :へたれ語り部 ◆hdUppeK1Rw :2005/08/03(水) 00:54:48 ID:dVykYBVc0
それから、そいつが事故にでも遭わないかとヒヤヒヤしてたんだが、結局何にも無いまま大学卒業まで漕ぎ付けてな。
内心、気にしてた俺がお人よしなような気もしたんだよ。
それで、そいつに言ったんだよ。
「あの時、あの山小屋で何を見たんだ?」ってな。
そしたら、そいつは少し寂しそうな顔をしてこう言ったんだ。
「言っていいのかわからん、お前は知らなくていい」

60 :へたれ語り部 ◆hdUppeK1Rw :2005/08/03(水) 00:57:30 ID:dVykYBVc0
今もそいつが何を見たのかはわからないし、別にそいつが不幸続きというわけでもないんだ。
ただ、そいつが暗闇を見つめていたときの目と、その後の剣幕がどうしても思い起こされてな。

そこまで言って、K先生はため息をついて、こう呟きました。
「それ以来、暗闇をじっと見つめられないんだよ。
 何か、見ちゃいけないものが見えてしまうんじゃないか、ってね」

61 :へたれ語り部 ◆hdUppeK1Rw :2005/08/03(水) 01:00:31 ID:dVykYBVc0
K先生は話を終えると、少し笑って、念仏を教えてくれました。
今思うと、浄土宗の十念、というやつだったようですが、先生なりの対処法だったのでしょうか。

翌朝、いい天気の空を見て、K先生は言いました。
「お前ら、こういう晴れた空をよく見とけ。
 何かあったとき、この空さえ思い出せば、怪異も何もこの空に勝るものは無い」
なんとなく心に残った言葉でした。

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