84 :本当にあった怖い名無し:2009/09/05(土) 20:45:37 ID:NWP2k8Ea0
人類滅亡のシナリオは、ある日唐突に始まった…。
いつもの様に深夜番組を見ていたら、ニュース速報が入った。
『米国政府はハッブル宇宙望遠鏡により、地球に迫る大質量隕石の存在を確認したと発表…』
それが第一報だった。
正直、俺はハァ?と思った。
その時は、その隕石がどれだけヤバイのか全く分からなかった。
しかし、その20分後にテレビが次々に特番に切り替わり、そのまま通常番組に戻る事は無かった。
番組はどれも同じような情報を繰り返していた。
隕石の直径は27㎞以上であると観測され、恐竜を絶滅させた隕石の2~3倍の大きさ。
この大きさだと、人類の持つ全ての軍事兵器を用いても衝突を回避出来ない。
衝突後の衝撃波や津波、地震や噴火などの災害も予測されていた。
隕石は異常な速さで地球に接近しており、その分ダメージも莫大なものとなる。
そして、一体なぜ人類は今までこの隕石の存在に気付かなかったか…などであった。
スーパーコンピューターの計算によると、隕石がインド洋上で地球に衝突するまでわずか93日と言う事だった。
各国の政府は次々に空港閉鎖を宣言した。
その一方で、全ての国の軍事機密が共有され、あらゆる国のミサイルがアメリカを中心とした国連の指揮下に入った。
北朝鮮でさえノリノリでこれに参加した。
全世界協議が開かれる中、各国の兵器の最終調整が進み、
遂に全人類の期待が寄せられる中、世界中の軍事兵器が隕石に向けて一斉に火を吹いた。
…しかし、結局隕石の接近を食い止める事は出来なかった。
更に時間が経つと、海外では暴動も起きているらしかった。
その映像はネット動画では見られたが、テレビでは報道されなかった。
日本は電気ガス水道などのライフラインも確保され続け、
いさぎよく覚悟を決めた国民の意識も穏やかで、他国に比べ平和だった。
隕石がいよいよ近づくと、テレビでは人類の歴史を振り返る番組や自然の風景が流れたりした。
そして、とうとうアマチュアの天体観測家が、望遠鏡で隕石の姿を確認するまでになった。
隕石はライブカメラでも中継され続けていたが、
俺も望遠鏡を使って自分の目でそれを見てみたくなって、夜中の大学に忍び込む事にした。
ゼミの教授の研究室に、大きな望遠鏡がある事を知っていたからだ。
85 :本当にあった怖い名無し:2009/09/05(土) 20:47:21 ID:NWP2k8Ea0
大学の正門に近づくと、山梨ナンバーの軽トラが一台ハザードを点滅させて止まっていた。
誰かに見られたらさすがにヤバいよな…と思って運転席を覗くと、
そこにいたのは寺生まれで霊感の強いT先輩だった。
「よぉ、遅かったじゃねえか。待ってたんだぜ」
Tさんは笑顔でタバコをくわえたまま、運転席から身を乗り出してそう言った。
俺はTさんと一緒に望遠鏡を盗み出し、中央道を山梨に向かった。
高速を走りながら、Tさんと取りとめのない会話が続いた。
Tさんとこんなに話すのは初めてだった。
無精ヒゲを生やしたTさんの頬は、以前より痩せて見えた。
「Tさんと会うの物凄い久し振りだけど、どうしてたんですか?」と聞いてみた。
Tさんはタバコの煙を吐きながら、
「ああ、山に籠もって色々やってたんだけどな。今回はマジでヤバかったよ…何回も死にかけた。
だけど、おかげで今の俺は物凄げぇぞ」
Tさんは真顔でそう言うと、チラリと俺を見た。
「そう言えば、俺が夜中に大学に侵入するのも知ってたみたいですけど…」
「ああ、知ろうと思えば何でも分かるよ」
Tさんはくわえ煙草のままで笑っていた。
話によるとTさんは、山から降りて動けなかった所を山梨の農家に救われたらしく、
地球の危機を知ったのも3日前だと言っていた。
「だからこの軽トラも俺んじゃねえんだよ。
でもちょうど良かったろ?都会じゃ星も見えないし、俺も山梨でトラック返すんだから」
Tさんと話していると、もうすぐ地球が壊滅する事がウソのように思えた。
86 :本当にあった怖い名無し:2009/09/05(土) 20:48:32 ID:NWP2k8Ea0
目的地の山に着くと俺は望遠鏡をセットして、大分苦労した後に、ようやく問題の隕石を捉える事ができた。
望遠鏡のフレームの中でプルプルと小さく震えているその薄暗い塊が、人類を滅ぼすだなんて、
俺にはとても信じられなかった。
望遠鏡を覗き込んだTさんは、まるで子供の様にはしゃいでいた。
「よく楽しめますね。みんな死んじまうんですよ…」
俺は何だか急にやるせなくなってそう言った。
Tさんは顔を上げると、楽しそうにこう言った。
「何だお前、まだそんな事言ってるのかよ…これ覗いてみろ?面白いのが見れるから」
ワザと眉間にシワを寄せてそう言うと、望遠鏡を指差した。
俺は言われた通り覗いてみたが、別に何の変化もなかった。
その時、物凄いパワーがTさんの方向に流れて行く気配が感じられた。
…地震?屋外にいるのに、大地が大きく揺れているのが分かった。
“ゴゴゴォ”という激しい地鳴りと共に、
せっかく捉えた隕石の姿も、望遠鏡の視界から外にはみ出す程大きく揺れていた。
一体何が起きているのか見当もつかなかったが、俺は恐ろしくて顔を上げる事も出来なかった。
ふと大地の鳴動が止まって、隕石が再びフレームの中心に収まった…次の瞬間、
「破ぁ~っ!!」
望遠鏡の中の隕石に白い光弾が突き刺さるのが見えると、画面全体が真っ白になった。
「うぉっ!」っと俺は思わず声を出した。
…再び虫の声が聞こえ、望遠鏡が宇宙の暗闇を映し出した時、隕石の姿はもうどこにも無かった。
まるで何事も無かったかの様にタバコに火を付けるTさんの横顔を見ながら、
寺生まれってスゴい、改めてそう思った。
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