死ぬ程洒落にならない怖い話 『踏み入るべきではない場所』 - 洒落怖本舗

死ぬ程洒落にならない怖い話 『踏み入るべきではない場所』

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334 :踏み入るべきではない場所 1/7:2005/09/30(金) 11:21:32 ID:ItZOrWPy0

私がまだ小学校低学年の幼い子供だったころに、趣味で怖い話を作っては、家族や友達に聞かせていました。

「僕が考えた怖い話なんだけど、聞いてよ」と、きちんと前置きをしてからです。

特にじぃちゃんが、私の話を喜んで聞いてくれました。

私はそれがとても嬉しかったんです。熱心に聞いてくれるのと同時に、こわがってくれたから。

そんな折、私の作った話が、クラスの中で流行りだしました。

放課後の男子トイレで、個室を叩くとノックが返ってくる。といったありがちな話です。

クラスの女子の間であっという間に流行り、噂は学年中、学校中へと広まりました。

「男子トイレの前で、手招きする男の子を見た」とか言い出す女子も出てきていて、

私がやっとその噂を知って、「僕の作り話だってば」と言ってもきかず、その後もまことしやかに囁かれ続けました。

ついには、そこで肝試しを始めるグループまで現れてしまいました。

335 :踏み入るべきではない場所 2/7:2005/09/30(金) 11:22:49 ID:ItZOrWPy0

その肝試しでしたが、なにも起きるわけがないのに、

グループの子供が皆、「ノックの音が返ってきた」と言うんです。大変な騒ぎでした。

そんなワケないだろ!?と思って、作り話だということをアピールしようとしたのですが、

当時の私は、皆に冷たくされるのが怖くて言い出せませんでした。

そのうち私は、自分の話が本当になってしまったのではないか、と思うようになり、

すごく恐くなって、自作の怖い話をすることをやめました。

その騒動があってからしばらくして、じぃちゃんが怖い話をしなくなった私に、

「もう怖い話しないのかい」と聞いてきました。

私はもう泣きじゃくりながら、その話をじぃちゃんにしたんです。

「ほうかほうか」とやさしく聞きながら、こんなことを話してくれました。

336 :踏み入るべきではない場所 3/7:2005/09/30(金) 11:24:08 ID:ItZOrWPy0

「それはな、みんなが坊の話を本当に怖いと思ったんだ。

 坊の話をきっかけにして、みんなが勝手に怖いものを創っちゃったんだよ。

 怖い話を作って楽しむのはいいけど、

 それが広まって、よりおそろしく加工されたり、より危険なお話を創られてしまうようになると、

 いつの日か『それ』を知った、ワシらの目には見えない存在が、

 『それ』の姿に化けて、本当に現れてしまうようになるのかもな。

 目に見えるものではなく、心のなかにね。  

 『おそれ』はヒトも獣も変わらず持つもの。

 『おそれ』は見えないものも見えるようにしてしまう。本能だからね。

 だから恥ずかしくないから、怖いものは強がらずにちゃんと怖がりなさい。

 そして、決して近寄らないようにしなさい。

 そうすれば、本当に酷い目にあうことはないよ」

私は、じぃちゃんも何かそんな体験をしたのかと思って、「じぃちゃんも怖い思いをしたの?」と聞きました。

すると、予期しなかったじぃちゃんの怖い話が始まったのです。

337 :踏み入るべきではない場所 4/7:2005/09/30(金) 11:25:26 ID:ItZOrWPy0

「昔じぃちゃんは、坊の知らない、すごく遠くのお山の中の村に住んでいたんだよ。

 そこで、じぃちゃんの友達と一緒に、お山に肝試しに行ったことがあるんだ。

 そうだね、じぃちゃんが今でいう、高校生ぐらいのころかな。

 お地蔵さんがいっぱい並んでいたけど、友達もいるし全然怖くなかった。

 でも、帰り道にじぃちゃんの友達が、お地蔵さんを端から全部倒し始めたんだ。

 『全然怖くない、つまらない』って言ってね。

 じぃちゃんはそこで始めて、その場所に居るのが怖くなったよ。なんだか、お地蔵さんに睨まれた気がしてね。

 友達を置いて、さっさと逃げてきちゃったんだよ。

 そうしたら、その友達はどうしたと思う?」

「死んじゃったの?」

「ううん、それが、何も起こらないで普通に帰ってきたんだよ。

 でもじぃちゃんは、もうそれからオバケが怖くなって、友達と肝試しに行くのを一切やめたんだ。

 その友達は、その後も何度も何度も肝試しといっては、

 ありがたい神社に忍び込んだり、お墓をうろうろしたり、お地蔵さんにイタズラしたり、色々するようになってね。

 周りの人からは呆れられて、相手にされなくなっていったよ。 

 人の気をひくために、『天狗を見た』なんていうようになってしまった。

 じぃちゃんに、『見てろ、噂を広めてやる』なんて言って笑っていたよ」

338 :踏み入るべきではない場所 5/7:2005/09/30(金) 11:26:17 ID:ItZOrWPy0

「そしてある日、ふっと居なくなったんだ。

 じぃちゃんもみんなと色々と探したんだよ。

 そしたら…山の中の高い木のふもとで、友達は死んでた。

 木の幹には、足掛けに削った跡がてんてんと付いていてね。

 友達は自分で木に上って、足を滑らせて落ちたんだ。ばかなやつだよ。

 坊、世の中には、人が入ってはいけない場所っていうのがあるんだ。

 それは怖い場所だ。

 坊だったら、タンスの上もその場所だよ。

 落ちるのは怖いだろ。そういうことだよ。

 じぃちゃんの友達には、怖い場所が見分けられなかったんだ」

「怖いね。ばちがあたったのかな」

「いいや、怖いのはここからさ。

 友達が死んでから、村の中のひとたちが次々に、『天狗を見た』って言い出したんだ。

 じぃちゃんは、『あれは友達のでまかせだ』と言ったんだけどね。

 『友達が天狗の怒りに触れた』『祟りだ』『呪いだ』と、皆は自分達でどんどん不安をあおっていった。

 夜通しで見張りの火まで焚いたんだ。

 皆が顔をあわせるたびに天狗の話をするので、村の中がじめじめしていた」

339 :踏み入るべきではない場所 6/7:2005/09/30(金) 11:27:12 ID:ItZOrWPy0

「そんな時に限って具合が悪くてね、村の中でケガをするのが4件続いたんだよ。

 どうってこともない、ねんざまで数に数えられてね。どう見てもあれは、皆おかしくなってた。

 さらに噂に尾ひれがついて、『天狗に生贄を出さなくては皆殺される』とまで酷い話になっていた。

 そしてついに、本当に生贄を出そうという話をするようになったんだ。

 友達が死んだのは、木から足を滑らせて落ちたからなのに、完全に天狗のせいになってた。

 村の中の皆も、人が入ってはいけないところに踏み入ろうとしていた。

 それはね、人の命だよ。誰にもそれを奪う権利なんてないだろうに。

 じぃちゃんはね、天狗よりも、村の中の皆がすごく怖かったんだよ。

 だからね、じぃちゃんは、その村から逃げてきたんだ…」

340 :踏み入るべきではない場所 7/7:2005/09/30(金) 11:28:00 ID:ItZOrWPy0

じぃちゃんのこの話は、その後もねだって2度程聞かせてもらいましたが、

「絶対に内緒だぞ」と言われ、両親の居るところでは決して話しませんでした。

でも、今でも私の家には父方の実家はありません。

「農家の次男のじぃちゃんが、庄屋の娘のばぁちゃんと駆け落ちしてきたからだよ」

と、私の両親からはそう聞いています。

じぃちゃんが私に、自作の怖い話を聞かせてくれたのかとも思いましたが、多分違います。

その長い話が終わった時、じぃちゃんは大粒の涙をぼとぼと、私の小さな手の甲に落としたのですから。

今も思い出して涙腺が緩みました。

長文を読んでくれてありがとうございました。

関連話?:『祟りだ』

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