744 :本当にあった怖い名無し:2007/03/10(土) 14:13:42 ID:2o9Thpix0
小学生の頃、両親共働きでカギッ子だった俺は、学校から帰ると近所のおばーちゃんの家に入り浸っていた。
血縁者ではないが、一人暮らしのばーちゃんは、俺にとても良くしてくれたのを覚えている。
「ばーちゃんコレ見てや!新しいバイクやで」
当時仮面ライダーが大好きだった俺は、人形や本を持ち込んでは、かっこよさをバーちゃんに語っていた。
「ヨシ君は本当にバイクが好きなんやねぇ」
「俺もな、大きくなったら仮面ライダーみたいなバイク乗るんや」
「あら、素敵ねぇ。そしたらおばーちゃん後ろに乗せてね」
「ええけど、仮面ライダーのバイクはな、めちゃめちゃ高いんや。
俺の父ちゃんも買えんって言っとったから、俺がバイク買ったときには、ばーちゃんもうおらんかもなー」
今思うと酷い事を言ったと思うが、バーちゃんは優しく俺にこんな提案をしてきた。
「じゃあヨシ君が早くにバイクを買えるように、貯金箱にお金を貯めて行きましょ。
おばーちゃんも一緒に乗りたいから、貯めるの手伝ってあげる」
そう言うとバーちゃんは、古くさい干支の『丑』と書かれた、牛の貯金箱を取り出して来た。
それからおれとバーちゃんは、少しずつ小銭を貯める事になった。
ところが、それから暫くしておばーちゃんは、息子夫婦と一緒に暮らす事になり、俺の住む町からいなくなってしまったのだ。
ばーちゃんからもらった牛の貯金箱も、子供の俺はすぐに使ってしまい、
そしてばーちゃんの存在すらも、しだいに忘れて行ってしまった。
何年かして母伝いに、老人ホームで亡くなった事を聞いたときも、「ふーん」の一言だった。
745 :本当にあった怖い名無し:2007/03/10(土) 14:14:58 ID:2o9Thpix0
時が経って俺が17のとき。
当時いろいろあって高校中退。
非行に走り悪い先輩達と連む様な、絵に描いた不良になっていた。
俺はひょんな事から、先輩のバイクを預かる事になった。
日々何かにむしゃくしゃしていた俺は、そのバイクを荒い運転で乗り回し転倒…
俺自身のケガは軽かったが、バイクはボコボコ。
地元でも有名な恐ろしい先輩だった為、俺は真っ青になり、真剣に地元からバックレようかと考えていた。
修理代を計算しても何十万もかかる。
俺は親の財布や弟のへそくりまで持ち出し金をかき集め、
明日は友人の家まで金を借りに行こう、と考えながら眠りについた夜。
夢にバーちゃんがでてきた。
「あれがあるがいね。あれ使いまっし」と俺に言うのだ。
俺はアレと言うのが『丑』の貯金箱だとすぐに解ったが、
「あれは昔全部使ったんだ」と言っても、バーちゃんはニコニコ笑っているだけ。
そんな夢を見た。
俺は明け方目を覚ますと、夢の内容が気になり貯金箱を探した。
何故か俺は、10年近く前の貯金箱の在りかを知っていた。
自分で片づけた記憶なんて無いのに、
迷うことなく倉庫の棚の2段目のダンボールの奥深くから、貯金箱を探し出せたのだ。
取り出して見て驚いた…重いのだ。
お金を入れる口から見えるほど、ギッシリとお金がつまっていた。
たしかに俺は、昔この貯金箱を空にしたのに…
この貯金箱の事は、俺とバーちゃんしか知らないのに。
貯金箱の底を外して中を数えると、たった4万円分だった。
「へへ…たりねーじゃん…全然…」
夢に出てまで勧めたくせに全然足りなくて、そんなオチに笑いながらも泣いた。
すごく胸がいっぱいになり、その足で先輩に土下座しに行き、ボコボコにされ病院送り。
みんなにお金を返し、退院したら働いて修理費を返すことになった。
入院中、母にこの話をした。
「…でさ、4万しかねーの。全然足りなくてさぁ、マジうけた」
感動劇みたいに話すのが気恥ずかしかった俺。
「足りたじゃない…充分…足りたのよ」
母の言葉が、また胸にじわっと広がった。
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