229 :あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/02/03 01:23
年末から年明けにかけて、俺は実家の在る群馬に戻って郵便局でバイトをしていた。
高校2年の時から長期休みの時は、必ずこの郵便局でバイトをしていたし、
田舎な事もあって、その郵便局の配達ルートを全て覚えていた。
そんな事もあって、局員には「即戦力が来てくれた」と喜ばれたが、
今回初めて郵便局でバイトするという工房Sの引率を任されてしまった。
早い話が、2,3日一緒に配達して配達ルートを覚えさせろ、という事だ。
このSかなりのお調子者で、俺とは直ぐに冗談を言い合える仲になった。
こいつが配る所は50ヶ所程度。
配る家は少ないが、次の配達場所まで滅茶苦茶遠い。俗に『飛び地』と呼ばれている地域だ。
230 :あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/02/03 01:24
バイトを始めて8日目だった。
俺とSの配達地域は隣同士だった事もあり、局に帰る時にバス停横の自販機で待ち合わせをしていた。
その日、Sは目を真っ赤にして涙を流しながら、猛スピードで自転車を漕いで現れた。
時間は17時になろうとしていて、バイトは局に帰らないといけない時間を大幅に過ぎている。
転けたらしく、顔も服も自転車も泥まみれだった。
「どうしたんだ?」と聞くと、「ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ」を繰り返すだけで要領を得ない。
俺は配達物を破損・紛失したのかと思って、「とりあえず局に戻るぞ」と言って、Sを引っ張って局まで戻った。
Sの姿を見た集配課の課長が、何事かと駆け寄って来た。
課長が「どうした?手紙をなくしちゃったのか?」と聞くと、Sは「全部配りました」と言った。
どうにもこうにも要領が得ず、俺が「何があったんだ?」と聞くと、「信じてくれないから」とSは言った。
その後、数名の局員が帰って来て、同じ様な事をSに聞いたが、「信じてもらえないから」の一点張り。
一人の局員が「もしかして、真っ黒のカカシを見たのか?」と聞くと、Sは何度も頷いた。
もう一人の局員が「ああ、森で?それとも川?」と聞くと、Sは「両方」と答えた。
231 :あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/02/03 01:25
Sの配達ルートにAという家がある。
配達物を見る限り、中年の夫婦が2人で住んでいるようだ。
其処に行くには、300mほどの暗い森を抜け、小さな小川を渡り、畑の中道を通らなければならない。
ぶっちゃけ、こんな所に家建てるなと言いたくなるような所だ。
そのA宅は、20年くらい前に火事になったらしい。
その火事で、夫婦の子供と年寄りの3名が亡くなったそうだ。
年寄りの爺さんは子供を病院に運ぼうとして森の道で力つきて、婆さんは黒こげで小川に浮かんでいて、
子供は救急車で病院に運ばれたが、移送先の病院で死亡したそうだ。
いまA宅があるのは、畑の中道を通った所になっているが、前は今の畑があった所らしい。
局員の話では、爺さんは子供を捜して、婆さんは今も熱さから逃げようとしているんじゃないか、という事だ。
「最初はカカシだと思った。だけど、真っ黒な頭の目が開いた。真っ白だった」とSは言った。
俺もふと思い返してみた。
確かあの畑にはカカシは無かった。
だけど、今年になって一回だけ、川に浮かぶカカシを見た気がする。
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