百物語 『手袋』 - 洒落怖本舗

百物語 『手袋』

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21 :代理投稿立候補◆YtFiiqjbeo :2015/02/14(土)18:18:33 ID:Vve
葛◆5fF4aBHyEsさん
手袋

祖母は編み物が好きだった。
勿論それは趣味の領域を出ないものだったけれど、私は祖母の作ってくれた服が大好きだった。
祖母が亡くなる前年、私に手袋をくれた。
それはリボン柄が編み込まれたとても可愛らしい手袋で、私は何年もその手袋を使っていた。
何年も使っていると手袋はボロボロになった。
加えて成長期なこともあって、「この手袋は今年で最後かなあ」なんて思っていた。
新しい手袋を買いに出掛けてみるけれど、どれも祖母のものほどしっくり来ない。

そんなある日、その日も手袋をして、私は友達と高台にある公園に遊びに行った。
お城の跡に作られた公園なので、石垣とお堀が未だに残っている。
皆でボール遊びをしていると、ボールがお堀の方へ飛んでいってしまった。
慌てて追いかけると……あった。
良かった、ギリギリお堀に落ちてないみたい。手すりに引っかかってる。
そんなことを思いながら鉄棒の横を通ると、突然ぐいっと右腕が引っ張られた。
「えっ」
驚いて振り向いた私は、もう一度驚いた。
引っ張られたと思ったのは間違いで、私の手がしっかりと鉄棒を握っていたのだ。
「えっ、えっ??」
私は鉄棒を握ろうなんて思っていない。むしろ握った手を離したいのに、指一本動かせない。
自分の手が自分のものじゃなくなったみたい。
半泣きになりながら左手で指を引き剥がそうとしたその時だった、
グラッ……と地面が揺れて、私はその場にへたり込んだ。
今思えば震度4くらいだったと思うのだが、滅多に揺れたことが無い地域だっただけに、辺りがにわかに騒がしくなった。
いつの間にか、右手は鉄棒から離れていた。
ボールは揺れたからかお堀の方に落ちていったようだ。
もし、ボールを拾いに行っていたら、弾みで落ちていたかもしれない。

「きっとばあちゃんが守ってくれたんだよ」
帰って両親に話すと、父がそう言ってくれた。

その手袋はもう小さくなって手は入らないけれど、今も私の机の上に飾ってある。

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