150 :長居です:04/09/02 16:39 ID:iSMsOmCs
部屋の中には大と小の土嚢のブロックがあり、その間が通路になっている。
小さなブロックの方が窓側で、俺らはその上に腰掛けていた。
なぜか傍らに、蛇のようにドグロをまいたロープがあった。
「こっちの奥には何があんだろう」
田中は土嚢の間を注意深く歩き始めた。
信じられない行動だった。俺は取り残される恐怖に怯え、思わず後を追おうとした。
頭の中には、死んだホームレスのことしかなかった。
何かあったらすぐ田中の方へ逃げられるよう、俺は腰を浮かして恐怖に耐えた。
「おーい、線香があったぞ」
暗がりにぼんやり見えていた山田が、突然姿を消したかと思うと、間延びした声をあげた。
「蚊取り線香だけどなあ」
「最近誰かが入り込んだのかなあ?」
田中は、恐怖よりも性欲が勝っているらしい。
信じられない想像力だった。
151 :長居です:04/09/02 16:40 ID:iSMsOmCs
「おいおい、コンドーさんの袋があるぞ」
俺は自らの負けを確信した。
「あいつ○○中だよな。うちの高校、あそこ出身の可愛い子っていたっけか」
田中の質問に答える余裕はなかった。
「・・・そうだよなあ。可愛い子は○○女子に行っちゃうんだよな」
俺は田中の姿を確認するので精いっぱいだった。
「でもD組の○○、あいつ確か○○中だろ。けっこう良くねえ」
ライターを点火するたび、あいつの姿が浮かび上がる。
「体操着の胸のあたりとかな」
話し振りに、ちょっと違和感を覚えた。
「おいっ!おまえ誰としゃべってんの?」
うあああああああああ
一瞬沈黙があり、田中がわめいた。
土嚢の陰から飛び出すと、こちらを無視していきなり扉に体当たり。
建付けが悪かったのか、その引き戸は簡単に外れた。
街灯が部屋の中を照らし、俺はその奥にちらっと視線を送った。
152 :長居です:04/09/02 16:40 ID:iSMsOmCs
あれっ!あいつ鈴木じゃないか。
躊躇する間もなく、俺は駆け出す田中の後を追った。
「ちょっと待て!あれ鈴木だよ」
コンビニの前で田中に追いすがり、やっと息をついた。
「だまされたんだよ。山田と鈴木がぐるになって、俺らを脅かしたんだって」
「鈴木?鈴木って誰?」
きょとんとした顔つき田中。
「はあ?」
二人の会話はまったくかみあわなかった。
「じゃあ、あそこで誰と話してたんだよ」
「暗くて分かんなかったけど、てっきりおまえだと思ってた。
顔は見えなかったけど、俺の後ろに確かに誰かがいた」
「それが鈴木なんだって」
そう言いながら、こんないたずらや悪ふざけするような奴には見えかったな、と思った。
正面に座り、一番熱心に俺の話に耳を傾けていた。
ほとんど喋らなかったが、時折軽く相槌を打ったりして、好感すら持てた。
鈴木なんて奴は訪ねてこなかった、と田中は言い張る。
とにかく山田に聞くしかないなということで、俺らは足早に山田宅へ向かった。
153 :長居です:04/09/02 16:41 ID:iSMsOmCs
チャイムを鳴らすと、山田が不安げな表情で出てきた。
「おまえら、どこに行ってたんだよ」
俺と田中は唖然として顔を見合わせた。
「だから、飯食った後、ソファに座って三人で野球中継見てたよな」
ここまでは皆同じだった。
「俺は昨日遅かったから、野球見ながら寝ちゃったんだよ」と山田は言う。
「おまえが眠そうにしてたから、俺が怪談話を始めたんだよ」と俺。田中も同意する。
「話してる最中に、鈴木っていう中学の同級生が部屋に入ってきたろ」
俺だけが確認している。
「俺、鈴木って友達いないし、そいつが勝手に家に上がりこんだのか?」
言葉に詰まると、田中が後を引き継いだ。
「あの川べりの小屋に、案内したのは覚えてるだろ。おまえが言い出したんだ」
自転車で行こうと言う俺を無視して、山田は一人先に歩き出した。
防災倉庫に着くまで、ずっと無言だった。
到着するなり、あらかじめ決められていたように、肝試しの設定を滔々と喋りだした。
まさか、夢遊病者のできることじゃない。
154 :長居です:04/09/02 16:42 ID:iSMsOmCs
山田は頭を抱え込んだ。
「だ か ら、もう完全に寝てたんだよ」
怯えているのかもしれなかった。
「じゃあ、あの小屋のことも知らないのか?」
絶句した田中に変わって、俺が訊ねる。
「知ってる。あそこは中学の時の通学路だった」
山田は真っ青な顔になって、震えているように見えた。
「ずっと前、いじめにあってた奴が、あそこで首吊り自殺したらしい」
全員黙り込んでしまった。
俺と田中はいったい何を見たのか分からず、混乱していたと思う。
「寝てて、夢を見た」
沈黙を破るように、山田がふっと口を開いた。
「おまえらが、どっかの部屋にいて、首吊って、死んでた」
三人同時に顔を上げた瞬間、部屋の照明がパッと落ちた。
その刹那、ソファーテーブルの上を、スーと白い人影が通り過ぎた。
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