百物語 『よいもの』 - 洒落怖本舗

百物語 『よいもの』

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6 :昨日の人 ◆3wiF1V29nQ :2012/08/18(土) 21:16:07.36 ID:w3QVPSRW0

小学校高学年の夏休み。

祖父母の元へ一週間ほど泊まりで帰省していた時の話。

山奥の村落、20軒ほどが身を寄せ合うところで、村には私のような子供は一人も居なかった。

住人はほとんどが高齢者ばかりのようで、過疎という言葉が当てはまる場所。

かといって暗い雰囲気は無く、小さな訪問者(私)に皆が親切にしてくれた。

「ミノル(父)の倅か、ほーかほーか。」「テービもねぇからつまらんろ」

「独楽回すか、独楽」「後で、釣りいくべ」「虫がいねぇんだろ、あっちは。捕り方おしえんべか」

どちらが子供か・・・。でも、うれしい。

二日目に祖父と釣りへ出かけた。村の爺様ほとんど連れて・・・。

山間の上流、比較的流れが緩やかな場所。気を使ってくれているのは分かった。

竿の振り方や餌のつけ方、魚の居そうな場所などを教わり・・・十人居ると十人が微妙に違う。

釣り始めて二時間もしないうちに、爺様たちは宴会になっていた。

一人竿を振る私のところへ代わる代わるきては、微妙に異なるコツを教えてくれた。

「あ?かかった?」

そろそろ飽きかけていたところ竿が引かれた気が。

引き上げて見ると、緑色の塊だった。

7 :昨日の人 ◆3wiF1V29nQ :2012/08/18(土) 21:17:36.57 ID:w3QVPSRW0

見ていた祖父と爺様達は、遠巻きに「お、ゆっくりな、ゆっくり」「でぇじにあつかえ」等、わけがわからない。

丁寧に外し、よく見ると緑色に錆びた風鈴のようだ。

「爺ちゃん、これ」と祖父に渡そうとしても受け取らない、触ろうとしない。

「おっ、いいからお前がもってろ」

ちょっと待って下さい、お祖父ちゃん。

他の爺様達も笑顔だが、誰も近づかない。

その後すぐに村へ帰ることになった。

祖父の家へ戻ると祖母も同じ反応だった。近づこうとしない。

でも、泣くほど不安になったわけではなかった。

村中の人が祖父の家へ集まってきた。お爺ちゃんお婆ちゃんだらけの中。

「それにはおめぇ以外触れねえんだ」「良い事があるよう」「わしは二度目かの」「まえは誰だった?」

等、笑いながら話していた。

祖父が「それはお前のもんだ、綺麗にして大事にしなきゃな」と、小さな箱をくれた。

とりあえず箱へしまい、やっと重たいものから逃れられたような気がした。

箱は仏壇へ納められ、私が帰る日までそのままだった。

帰る日まで村中の人から風鈴の経緯を聞かされていたが、

『よいもの』である以外内容がまちまちなため、結局分からず終いでいる。

今年も風鈴をつるしてはいるが、残念ながら音が鳴らない。

ただ、あの時のお爺ちゃんお婆ちゃん達の笑顔、子供のようだった。

何が起きるのかワクワクしている。

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