百物語 『修学旅行の夜』 - 洒落怖本舗

百物語 『修学旅行の夜』

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712 :すべて人民のもの ◆PX5DO.qc :02/07/13 23:29

◆◆◆【 054/100 】◆◆◆

もうかれこれ20年前、高校の修学旅行での話。

旅行も前半は元気が有り余っていて夜更かしをしていたものだが、

後半になると疲れが溜まってきて、その日は1時を過ぎると皆寝静まったものだった。

確か3時頃だったと記憶しているが、尿意で目を覚ました私が用を足してトイレから出てきたとき、

正面に寝ていた佐藤という奴と目が合った。

常夜灯の微かな光の中で、佐藤は寝そべったまま首だけを起こして、無言で私の方を見ていた。

「悪い、起こした?」

そう話しかけても、相変わらず彼は無表情で私を見つめているだけだ。

寝ぼけてるのかな?と最初私は思ったが、そのうち妙なことに気がついた。

佐藤の顔が透けて見えるのだ。

そして、起こした顔の後ろに、もうひとつの顔(こっちは枕の上にのせている)が見える。

私は自分の方が寝ぼけているのかと思い、目をこすってよく見てみたが、透けた顔はまだそこにあった。

次の瞬間、私は恐怖に襲われ、思わず部屋の電灯をつけた。

眩しさを我慢しながら佐藤の方を見ると、もう透けた顔はそこにはなく、何の変哲も無い寝顔があるだけだった。

私は自分の見間違いだと無理やり自分を納得させたが、消灯するのが怖くて、そのまま布団に潜り込んだ。

翌日、佐藤は普段と変わった様子も無く、そのまま旅行は続いた。

やがて私は高校を卒業して地元の大学に進み、この体験はすっかり忘れさっていた。

大学4年になり、そろそろ卒業論文に着手しようかという頃、佐藤の訃報を知らされた。

佐藤の死を発見したのは彼の下宿の大家で(佐藤は私とは別の大学に進んでいた)、

朝食の席に姿を見せないことを不審に思った大家が部屋を見に行き、

そこで布団の中で冷たくなっている佐藤を見つけたのだそうだ。

死ぬ前日まで佐藤はぴんぴんしており、まさに突然死だったらしい。

高校時代も特に親しい方では無かったが、一応クラスメートだったため、お通夜には出席することにした。

お通夜では数年ぶりに高校の旧友と再会し、不謹慎だとは思ったが、懐かしさも手伝ってそのまま飲みに出かけた。

そこで佐藤の思い出話をしているうち、木戸という奴が、「じつはさ、俺佐藤の生霊を見たんだよね・・・」と話し始めた。

木戸の話によると、佐藤を含めた友人数人とスキーに出かけた際、ホテルの部屋で私とほとんど同じ光景を見たらしい。

ただ、私の時は首だけだったが、

木戸は、寝ている佐藤から透けた上半身が起き上がり、まるで布団の上に足を投げ出して座っているような姿を見たという。

この話を聞いたとき、私は背筋が凍るような気がした。

佐藤は自分でも気がつかないうちに、夜な夜な幽体離脱をしていたのではないだろうか。

それも、最初は首だけだったのが、徐々に離脱する部分が多くなっていき、

最後には全身が抜け出て、肉体の方に戻れなくなってしまったのでは。

自分でも知らぬうちに少しずつ自分の体から離れていき、完全に離れたときに突然死をむかえた・・・

私にはこう思えてならない。

そして、20年近く経った今でも、薄明かりの中に浮かび上がる佐藤の無表情な顔を時々思い出す。

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